<真昼の決闘>02/10/14

今年のノーベル平和賞は、カーター元米大統領に決まったとか。
この平和賞というのは、科学や物理の分野と違って、一般の人にも馴染みがある人が選ばれるせいか、
「へぇー、なんであの人が」という人選も少なくない。
キッシンジャーとか、佐藤栄作などは、私的にはその際たる例。

でも、今回の選考は、ノーベル賞選考委員会の異例のコメント、
「同氏への授賞は、現在の米政権への批判と解釈されるべきだ」を聞かずとも、
あの歴史的な、エジプトとイスラエルを和解に導いた、キャンプデービッド合意と、
現ブッシュ政権の対イラク攻撃を対比して納得した人は多かっただろう。

あれからもう24年。
当時のサダト・エジプト大統領も、ベギン・イスラエル首相も既に亡く、カーターさんも78歳とか。
カーターさんは大統領を退いた後のほうが、世界中を飛び回って、国際間の様々な問題に
精力的に取り組んでいるように見受けられるけど、それでも、このタイミングでなければ、
彼の授賞はなかったのかもしれない。
それほど、今のブッシュ政権ががやろうとしていることは、あらゆる方面から非難を浴びている
ということを表しているのだろう。

そういえば、10月2日号のニューズウィークの日本語版に面白い記事が載っていた。
昨年10月、同時多発テロ直後のワシントンを訪れた小泉首相が、ブッシュ大統領から、
往年の映画「真昼の決闘」のポスターをもらったというものだ。(以下、『 』内引用)

『あれから1年。世界情勢の展開は、あの西部劇映画に薄気味悪いほど似ている。
映画では、ゲーリー・クーパー扮する保安官が、悪漢一味が復讐に戻ってくるから戦おうと
町の人々に呼びかける。
町の人々は、数年前に保安官が悪漢を追い払ったことに感謝している。
だが保安官が手を貸してほしいと説得しても、誰もが言い訳を並べるのだった。

判事は町を去ると言う。
保安官の旧友の一人は、争いごとになれば新しい投資が無駄になると反対する。
保安官の新妻(あらゆる暴力を憎む教師)までが、戦うのなら別れると迫る。

さて、現実の世界ではこれからの数週間、ブッシュ保安官が世界の善良な市民に、
サダム・フセイン率いるイラクとの対決に手助けを求めることになる。
湾岸戦争では大半の国がアメリカを支持したが、今回はどうだろう。

フランスのシラク判事は荷造りの準備を始めた。
ドイツのホテル王は商売への影響を心配し、窓に板を打ちつけている。
トニーという元気者のイギリス人青年だけは積極的だが、銃に込める弾丸はほとんど持っていない。
きまじめな女教師の小泉は、平和主義の信条と保安官との愛情関係のどちらが大事か、決めかねている。』

この記事を書いた、Peter Taskerさんという人は日本の証券投資を専門とする資産運用会社
の経営者らしいけれど、職業柄からか、アメリカ人だからか、当然のように
日本はアメリカに最大限の支援をすべきと言っている。

その理由の1つは、
『フセインは冷酷な暴君で、国内の少数民族に毒ガスも使った。
湾岸戦争では、関係のないイスラエルの人口密集地にスカッドミサイルを撃ち込んだ。
生物化学兵器の開発を進め、核兵器保有にも動いている公算が大きい。』
ゆえに、そういうイラクを叩くのは、正しい行動であると言うことらしい。

あははは、バカを言っちゃいけないよ。
これはアメリカが過去、世界各地の地域紛争でやってきたことと同じではないの。

もうひとつの理由は、今アメリカを助けなければ、「真昼の決闘」のラストで、保安官が、
自分が命を賭けて助けようとした人々の態度に失望し、バッジを投げ捨てて町を去ったのと同じ様に、
アメリカが孤立主義に引きこもってしまい、日本は悲惨な状況になるというものである。

『その結果、超大国として台頭する中国に、単独で戦略的に向き合わなければならず、
中国の軍備拡大に対抗するうち、衰弱した日本経済に痛手が重なり、政治システムは混乱に陥り
いずれ中国の従属国になってしまう』というもの。
フセインと戦う保安官ブッシュを見捨てれば、孤立するのはアメリカではなく日本だというわけである。

先週のブロードキャスターでも、何とか言うアメリカ人の記者が同じようなことを言っていた。
アメリカ人というのは、知識層と言われる人たちでも、本当にこんなに能天気なんだろうか。

「我々に力を貸すのは正しいことである。なぜなら我々はこんなに世界の人々を助けているのだから」
と本気で考えている無邪気なアメリカ人がいかに多いことよ。
彼らは、米国の中東政策の本当の意味も考えず、また米国が過去に、世界の多くの国の内政にいかに関与し、
混乱を与えてきたのかを知らないらしい。
彼らが世界の保安官を信じている限り、彼らは永遠にテロリストの標的であり続けるのだ、とは考えないらしい。
これも一種の思想教育ってやつか。

映画では、保安官の妻は最後の最後で銃を取り、夫と一緒に戦う。
さて、現実の世界ではどうなるのだろう。しばらく目が離せない。

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