<続・知らぬが仏> 03/01/30 17:06:33
前回、夫が脳ドッグで「脳動脈瘤あり」と診断されたということを書いてから
ちょっと時間が経ってしまいましたが、今回はその後編として、
予防手術とその周辺について知ったことを書いてみたいと思います。
「脳動脈瘤」とは、読んで字のごとく、脳の動脈の一部がふくれてこぶのようになった状態。
これは生まれつきあるわけではなく、中年以降に、脳の動脈の壁の弱い部分が
徐々にふくれてくるものらしいです。
で、これがあるとどうして困るのかと言うと、血管が膨れると、風船と同じで、
その部分の壁は薄くなるわけで、何かの拍子にその壁が破れて出血を起こすと、
血液が脳の表面にひろがり、くも膜下出血と呼ばれる状態になります。
これが非常に死亡率が高いので、瘤が発見されたら、破裂する前に予防処置をしましょう。
というわけです。
以前は、脳動脈瘤が、出血を起こす前に見つかることは稀だったらしいのですが、
最近は、脳ドックなどの検査で偶然見つかるというケースが多いのだそうです。
で、このような未破裂脳動脈瘤をどのように治療すべきかということは
脳外科医の間でも大きな問題で、国際的に大論争となっているそうです。
と言うのも、まず、未破裂の動脈瘤がいったいどの程度の確率で出血するのか、
現在のところ、充分信頼するに足るデータがまだないのが1番の理由。
もちろんデータが全くないわけではなく、従来、脳外科医の間では未破裂脳動脈瘤の年間破裂確率は、
1から2%、つまり、未破裂脳動脈瘤を持っている人が100人いたら、1年後にそのうち1人か2人が
くも膜下出血を起こしていると言われていたそうです。
ところが、最近、国内外の脳外科の現場で大規模な調査が行われて、
年間破裂率に関するデータが集められたそうですが、これが従来から言われていた値よりも
かなり低かったため、(直径6mm以下の動脈瘤の場合、年間破裂確率は0.1%)
危険を伴う予防処置は是か非かと、論争になっているようです。
どんな手術でも100%安全と言うことはないでしょうが、
特に脳動脈瘤の手術の危険率は、動脈瘤の場所や大きさによっても異なるでしょうし、
手術を施す医師の熟練度も大きく関係します。
そのため、未破裂脳動脈瘤そのままにしておく危険と、予防手術を施す危険とを
天秤にかけることになります。
知り合いで、3年前にこの「予防手術」を受けた女性がいます。
彼女もやはり、検査でもしておこうかと何気なしに脳ドッグに入って、
左眼のすぐ後ろに動脈瘤が発見されたのです。
彼女の場合は、いつ爆発してもおかしくないという大きなものだったのと、
できた場所が悪く、もし爆発すればおそらく即死、運良く助かったとしても、
たぶん植物状態になるだろうという診断で、彼女は、躊躇する間もなく、
検査から1週間目で予防手術をうけました。
その人が受けたのは、当時始まったばかりの、コイリング法という手術で、
大腿部の動脈からカテーテルを入れて、瘤の中をコイル(とても細い金属の糸)で充満させ、
そこを血液が通らないようにするというもの。
保険が利かず数百万円もかかったらしいですが、開頭しないので、
翌日には起きて歩けたし、2週間で退院できました。
今でも年に2回、数日だけ検査入院をしていますが、それ以外は手術前と変らず
元気で仕事を続けています。
でも、この新しい手術方法も、施術する人の腕に寄る所が大きく、完璧ではないとのこと。
もし、コイルが途中でこぼれたり、患部に届いてもそこから動いてしまうと、
他の場所で血栓になる危険が大きいのだそうです。
彼女が最近主治医から聞いた話によると、当時年間50人ほどがこの手術を受け、
手術中あるいは直後に亡くなった人が半分、障害が残ったりその後亡くなった人を合わせると、
彼女のように全く以前と変らぬ生活をしている人は、現在彼女の他には
1人しかいないとのことでした。
この医師は、当時、この手術法では日本で最も信頼できると言われていた
2人の医師の内の1人であったにもかかわらず、です。
これに比べると、現在も広く行われている、クリッピング法と呼ばれる手術のほうは、
手術中あるいは直後の死亡率が5%以下、何らかの後遺症を残す率が、4〜10%程度と
聞きましたから、まだ危険が少ないかもしれません。
このクリッピング法とは、動脈瘤の根元の部分を金属製のクリップでつまんで、
動脈瘤へ血液が流れないようにして、出血を予防するという手術。
コイリング法と大きく違うのは、頭を開けてするので、入院期間と、
通常の生活に戻るまでの時間が長くなるという点です。
コイルもクリップもそのまま頭の中に残ったままになりますが、
そのこと自体は特に問題になることはないと、今のところ、言われているそうです。
(但し、血液に長い時間さらされた場合のデータが、臨床ではまだ充分に蓄積されていないとか)
で、友人の脳外科医に参考意見を求めたところ、彼は、どんなに小さくても、
MRIに出てくる大きさの瘤(1、2ミリで出てくるらしい。それでも脳外科的には大きいというらしい)
が自分の頭に見つかったら、迷わず予防手術を受ける。と言います。
彼曰く、
くも膜下出血で倒れて助かるのは30%(元のようにならなくても取り合えず命はある状態も含めて)
また、1年間にくも膜下出血で倒れる人は100人に1人という高確率(従来のデータ)である。
ゆえに、手術しやすい場所なら受けるべきと言います。
でも、もし、手術しにくい場所なら?
それは、もう爆発する危険と同じくらい手術も危険だから、あきらめて運を天のまかせるしかないとのこと。
そしてストレスのない生活を心がけて、バファリンを服用するしかないな、と言います。
バファリンには血液をサラサラにする効果があるのだとか。
脳外科では、脳溢血などの手術後の患者には、バファリンを処方するのだそうです。
彼は脳の血管検査で、自分の血管が細く弱くなっていることを知って以来、
毎日1回バファリンを半錠飲んでいるんだそうです。
その話を、内科医の友人にしたら、彼は「それは外科医の考え方だ。
症状がないなら、脳なんか絶対いじらないほうがいい。」
自分なら、血圧をコントロールをして、バファリンを飲んで、あとは運を天に任せる。と言います。
彼もまた、成人病予防のためにバファリンを毎日飲んでいると言います。
もうひとり、今度は精神科医をしている知り合いに聞きました。
その人は、脳外科の友人と同じ意見。
その後の生活の質を考えると、爆発する前に手術を受けるほうがいいと言います。
「じゃ、先生自身がそうなったら予防手術を受けますか?」と聞いてみたところ、
「いや、僕はそんなことわかっても迷うだけだから、検査なんか最初から受けない。」
・・・さすが精神科医です(笑)。
たしかに、動脈瘤を持っていても、死ぬまでの間に破裂さえしなければ、
あるいは破裂したとしても同時に死んでしまえば、それはそれでいいのかも。
さわらぬ神に祟りなし、知らぬが仏というわけですね。
余談ですけど、家では、夫婦とも3大疾病と診断されただけでで
2千万出るという保険に長いこと入っていたんですけど、
50歳から保険料が3倍になるというので、検査のちょっと前に解約したばかりでした。
家の夫は、今回、動脈瘤が発見されたことよりも、そっちの方がショックだったらしいです(笑)。
というわけで、
みなさんも、脳ドッグを受けてみようかと思いついた時は、受ける前に、
万が一、脳動脈瘤が発見されたあかつきには、予防的手術を受ける勇気が自分にあるかどうか、
受けないならばそのまんま、なかったことにして死ぬまで忘れて過ごせる性格かどうか
しっかり見極めてからに致しましょう。
あ、それから、大事なことがもうひとつ。
3大疾病と病名がついただけで保険金が下りる、保険に入ってからに致しましょう。
*バファリンについては、今回たまたま身近な医者がすすめるので、
我が家では、毎晩半錠ずつ飲んでいますが、体質や他の薬との関係もあるでしょうから、
みなさんが試してみようと思われた場合は、必ず、かかりつけのお医者さんにご相談なさって下さいね。
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