<分解直前>  03/03/02

2月14日の安保理では、フランスは査察にもっと時間をかけるべきと主張し、
その意見に同調する国が15カ国中12カ国と圧倒的多数を占めた。

イラクの大量破壊兵器開発の証拠を示す、と息巻いていたアメリカだったけど、
直前になって「決定的な証拠じゃないかも」とトーンダウンし、実際に取り上げたのものも、
画像と音声といういともたやすく加工できてしまう「メディア的証拠」にすぎなかった。

こういう「メディア的証拠」は視覚的なものに訴えるという意味ではとても効果があるけど、
ゆえに論理的なものを短絡させてしまう危険がある。
基本的には状況証拠にすら及ばないものなんじゃないかと思う。

アメリカでは、ロドニー・キング事件あたりから、ビデオが証拠として採用されるようになったと聞いているけど、
その背景には、訴訟社会のアメリカのこと、あまりにも煩雑になってしまった裁判過程を
短縮する意味合いがあってのことだろう。
しかし、そういった自国の裁判をそのまま延長する形で、国際的な協議の場をも短縮させてしまって、
確証も示されないのに戦闘行為におよぶということが一度容認されてしまったら、
それはまさに真昼の決闘の舞台と同じ、無法地帯になってしまう。

9・11を経験したアメリカは、テロから自国民を完全に守ることはむずかしいことを理由に、
テロ組織およびそれを支援する国に対して先制攻撃をかけることを自衛のための戦争として正当化した。
でもその論理に納得しているのは、イギリスとスペインだけである。

アメリカは以前にも説明責任を放棄して愚かな戦争をした。
あの泥沼のベトナム戦争である。
あの時のアメリカの理屈は、共産主義の拡大を防ぎ、ベトナムに民主主義をもたらす
というというものだったけれど、現実にアメリカが支持した政権は残虐さで悪名高い軍事政権だった。
そして、アメリカは無残に敗退した。
国際社会からの支持もなく、多大な犠牲を払った上に、アメリカ国民からもそっぽを向かれたあの戦争は、
アメリカにとって大きなトラウマとなったのではなかったのか。

そもそも今回のイラク問題は、アメリカがイラクの兵器開発を指摘したのだから、
当然、立証責任はアメリカ側にある。否認する側ではない。
たしかにサダム・フセインは危険人物かもしれない。
湾岸戦争でイラクに課された大量破壊兵器の破棄を、12年間にわたってのらりくらりと無視してきた。
世界第2位の原油産出国であるのに、原子力発電所を欲しがるのは、
アメリカがいうように、核兵器を開発するという目的かもしれないし、
生物兵器や化学兵器もたぶん隠し持っているかもしれない。
でもそれらを活用する社会インフラもイラクの国民も、91年と98年の湾岸戦争で受けたダメージから
いまだ立ち直っていないという事実も忘れてはいけない。

対イラク戦争が始まるのか、それとも避けられるのか、事態は最終ステージに来ている。
アメリカやイギリスはたとえ国連安保理で決議案が否決されても、イラクを攻撃する構えでいる。

ある国にとって満足のいく状態は、別の国にとっては不満でしかない。
過去に力で押さえつけられた不満が、テロとなって噴出してきたのではないか。
アメリカには、なんとか大国としての真のプライドを取り戻して冷静になってもらいたい。
そうして、あのベトナムでのトラウマを思い出してほしい。

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