■本の部屋過去ログ・その2
2001年8月14日〜9月18日まで(16〜25)

日付は上から古い順になっています。


16)『反時代的、反教養的、反叙情的』
どーも    投稿日:2001年8月14日<火>12時22分

    古山高麗雄(こまお)著 ベスト新書(KKベストセラーズ)
          2001年7月1日発行 定価680円

老作家の身辺雑記を集めたエッセイ集です。
地味です。ハデな話や,落涙にむせぶような話は全くありません。
恋や愛やきわどい話は,その影もありません。
しかし,後でけっこうじわっと利いてきます。
正論なのです。もちろん,ただのきれいごとという意味ではありません。
世相をふんわりと切ってみたり,また,戦争の話や友人の死などを
それほど重くならないように,しかし,実体験と照らし合わせて
誠実に綴られています。

題名に3つも「反」を使っています。そのこだわりがいいです。
著者は,よほど,今の時代に幻滅しているのでしょう。
特に,マスコミなどで作り出された風潮が嫌いなようです。
私もどちらかというと,ちょっとハスに構えたものが好きです。
でも,徹底的に頑固なものが。
例えば,吉村昭や中野孝次,新藤兼人など,結構読んでます。
古山高麗雄も80歳を超えて,ますます頑固になってきたみたい。

ところで,新書は結構好きです。手軽,安い,身近ですから。
でも,正直言ってベストセラーズ社のものを読むとは思ってませんでした。
だけど,結構いいもの出してます。好き嫌いはいけませんね。
17)恥 辱
どーも   投稿日:2001年8月18日<土>18時51分

  ジョン・マクスウェル・クッツエー著 鴻巣友季子訳
    早川書房 2000年11月30日発行 定価2,000円

初老の大学教授が、教え子の女学生へのセクハラで大学を追われて、
片田舎へ逃げ込み、娘が経営する農園での共同生活のなかから、
自己再生を図ろうとするが、結局・・・・・・・というのが、あらすじ。

舞台は、アパルトヘイト終焉後の南アフリカ。
主人公は、白人の言語学教授であるが、離婚暦が2回あり、
女性にはたいへんだらしない生活を送っている。
自信満々で持った一人の教え子との性関係から、告発を受けて、
一言の弁明もせぬまま失脚することに。
それまで、疎遠だった田舎に住む娘のもとに身を寄せる。

農園での生活で、彼がいかに西欧の論理と価値観で
物事を見てきたかを思い知らされる。
すでに娘との間にも世代の違いばかりでない厭離が生じており、
もどかしくも関係の修復は進まない。
しかし、農園での衝撃的な事件を契機にして、
そこから立ち直ろうとする娘の自立に促されるようにして、
彼もまた自己の再生を図ろうとしていく。
(が、その間にも彼の女性漁りは止むことはない。)

救いのない転落の構図の中で彼が見せる居直りや足掻きは
時に、ユーモラスでもある。
果たして、彼は、これからの新しい時代に、また新しい土地で
生き抜いていける人間になれるのか。
切な過ぎるラストから、それをはっきりと読み取ることは難しい。

1つ、お断りしておきたいのは、作品中、動物(犬)を巡る
残酷極まりないシーンが出てくること。
さらに、主人公が田舎で就いた仕事が動物クリニックの
ボランティアで、犬の安楽死と焼却処分をしているということ。
繰り返されるシーンに、彼はますます神経過敏になっていき、
人間の傲慢さと愚かさを思い知らされる。

教え子に対するセクハラで失脚、なんて日本でもよくありそうで、
そんな興味から読んだ部分もあるが、転落し続ける人生を
いかにくい止め、再び自らの生き様を誇れるようになるのか、
ズッシリと重い読後感が残った。

なお、「恥辱」という題は、なんだか破廉恥なことでもしでかして、
辱めを受け転落していくというイメージがあり、まさにストーリーは
その通りなのだが、むしろ原題の「DISGRACE」=神の恩寵を失うこと
と考えると、しっくりくる感じがする。
これからの人生を新しく生き直そうと真剣に考えている初老の男性?
(それって、私?)にぜひお薦めの1冊です。
18)勝 利
どーも   投稿日:2001年8月25日<土>11時04分

   ディック・フランシス著 菊池光訳 
早川書房 2001年5月15日発行 定価1800円

ついに、ミステリー初登場です。
私は、知る人ぞ知る驚異のミステリー読み人間なのです。
ディック・フランシスの競馬シリーズのなんと第39作目が登場です。
競馬に全く興味のなかった私は、敢えて巷の評判を無視して
頑なに、このシリーズを手にとることを避けていたのですが、
男のロマンを求めるまだ若かりし私の血が、シリーズ第1作目と出会ってから
約20年間の歳月が流れたのであります。
ただ本作は、はっきり言って強くお薦めするというほどではありません。
何せシリーズの39作目ですから、私にとってはもうインパクトは
ありません。はっきり言って半分は惰性で読んでいます。
シリーズ物で、本当に力があるのは20作目まででしょう。
私の評価でも、このシリーズのベスト5は、第2、3、8、16、18作目の
「度胸」「興奮」「査問」「障害」「利腕」と、すべて20作目までの作品です。
ですから、もし初めてこのシリーズを読まれる方は、すでに文庫化もされている
初期の作品から読むことをお薦めします。

この競馬シリーズ、シリーズとはいっても、一部の例外を除いて
毎回主人公は異なります。ただ、メインテーマがすべて競馬だということです。
競馬といっても、イギリスが舞台ですから、主に障害レースが中心になります。
そして、毎回登場する主人公の職業が大変興味深く、また魅力的です。
その人柄も、大体共通しており、要約すると、勇気、清廉、正義感、行動力と、
ここまで書くと陳腐ですが、さらに、孤独、そしてちょっと女好きがプラスされ
ぐっと魅力を増します。

本作「勝利」の主人公ジェラードはガラス工芸家。レースで事故死した騎手から
あずかったビデオテープを巡って、4人の邪悪な人間と対決するというものです。
(そのうちの1人は、極めつけの邪悪な女性です。)

このシリーズのもう1つの魅力は、翻訳家の力に負うところ大の文体の魅力。
文章が簡潔で、悪く言うと途切れ気味の感じが、ミステリーの緊張感を
高めています。特に、主人公の会話の部分のボツボツ切れたような感じが
妥協を許さない強い意志を持った個性をよく表しています。
これだから翻訳物は困る。日本語の美しさが損なわれている、
という人も中にはいますが・・・

もちろん、本作も標準のレベルを超えていることは間違いありません。
しかし、私がまだこの主人公のように若く、正義感に燃えていた時分に、
ハヤカワポケットミステリで出ていたこのシリーズを、次から次と
貪るように読んでいた当時の力強い作品群が懐かしく思い出されます。
ただ、そろそろこのシリーズも終わりかなと思うと、どうしても途中で
投げ出す気にはなれません。

最後に、ちょっと種明かしを。
本作は、「勝利」ですが、あまりいい題名とは思えません。
でも、原題どおりだと種明かしそのままなので、アレンジしたのでしょう。
本作の原題は、SHATTEREDといいます。
ガラスは、こうなる運命にありますよね。
19)わたしの献立日記
はるみん    投稿日:2001年9月2日<日>17時28分

沢村 貞子 新潮社 1200円 1988年12月発行(絶版?)
        新潮文庫 420円
              

今は亡き女優の沢村貞子さんが、22年間に渡って書きとめた、
ご自身のお家の献立を中心に、あれこれ身の回りのことと
「献立ひとくちメモ」で構成されたエッセイです。

この本が発売されたころは、世はまさにバブルの真っ最中、グルメ時代。
街には、世界中の食べ物が溢れ、テレビでは非日常的な料理を
紹介する番組が視聴率を稼ぎ、料理通と称する人達が、あそこのあれ、
いや、ここのこれなどと、互いの知識と味覚を競いあっていた頃。

そんな時代の風潮の中で、たまに食べる贅沢なものもいいけれど、
家で食べる毎日の食事が大切と、丁寧に、しかもそれを飽かずに
何10年も続けている兼業主婦の生活は、そのころマンネリ化して
ダレ初めていた、主婦としての私の生活にカツを入れてくれました。

この他に、沢村さんのエッセイには、
・「私の台所」朝日文庫560円(暮らしの手帖社版は絶版)
・「わたしの浅草」暮らしの手帖社版:1500円、新潮文庫(価格?)
・「老いの道づれ、二人で歩いた五十年」岩波書店 1300円
などがあります。

気働きのある人、頭も体も目一杯使って、粋に生きて毅然と死んだ
明治の女の言葉は、身の丈にあった、こざっぱりとした生活の気持ち良さ、
何気ない日々の生活を丁寧に生きることの大切さを教えてくれます。

仕事を持ちながら、家事好きだった母親を持ったおかげ(?)で、
結婚した時、お米の研ぎ方も知らなかった私が、曲がりなりにも
自分のHPでエラソウなことを言っていられるのも、母からの遺伝子も
さる事ながら、「暮らしの手帖」と、「沢村貞子さんの本」に
育ててもらったおかげだと思っています。

*ちなみにHAMIXの「家の晩御飯」は、この本を読んだ影響で、
 以来10年間、所々抜けながらも記録していた「私の献立日記」
 ノートからの引継ぎです。
 沢村さんも、この本のあとがきで書いておられるように、私も
 「私の献立日記」は、自分でときおりめくって振り返るのは
 楽しいけれど、人様にお見せするのは、とても気恥かしいことと
 思っておりました。しかし、こうやって人様の目に晒すことになると、
 いい加減なものや、同じものを出せないぞという気持ちになって、
 隙あらば手抜きをしたい最近の私には、良い枷になりました。

 人の欲望の中で最後まで残ると言われるのが、食欲だとか。
 残りの人生、あとどのくらい、自分の歯や舌で食事が味わえるか
 わかりませんが、日々の食事を大切に、できるだけ健康に、
 暮らしたいものです。
20)ベッドサイド
nana    投稿日:2001年9月3日<月>20時56分

林あまり  新潮文庫 400円 平成12年発行

以前から詩や歌に興味はありましたが
ちょっとしたきっかけで、自分でも書き始める事になりました。

書き始めるに当たって、私は何を文字で表したいのかを
考えました。

そうだ 生まれてから1度も女で良かったと思ったことのない
私が女しか書けないもの・・それを書こうと思ったのです。

その事を我が師であり友でもある人に話すと
この本を進められたのです。そして読んでみて
あぁ・・これだ
初めて自分の中の女を認められるそんな気がしました。

作家の松本侑子氏が解説で

口語体の言葉づかいには、強い情念の訴えはなく
淡い感覚がうっすらと漂っている。

芝居がかったせりふも、過剰な装飾もない。
声高にではなく、しずかにつぶやく。

だから,すっと胸にしみとおる。
あとに、かすかな叙情がたゆたう。

そしてこうも書いています。

命の祝祭のような快楽を楽しみながら、
信頼にに裏打ちされた心と体の永続的な
とけあいを感じている。 
 
僕達は ソウルメイトさ 
それだけで一生分の 愛をもらった nana
21)ひとめあなたに・・・
lou    投稿日:2001年9月4日<火>02時30分

新井素子 角川文庫

地球があと1週間で無くなってしまう!!というところから始まる話です。
主人公は恋人に会うために歩いて行くのですが、途中色々な人に会います。
あと1週間という極限状態に追い詰められて色々な行動をとる人たちに。
その中に、「夫が愛人のところに行こうとしたのでシチューにして食べてしまう妻」
というのがあり、なんだかとても衝撃を受けました。

途中経過は結構グロいシーンも多いのですが、最後はとても穏やかでした。
うまく言えないですが、好きな作品です。

この人の作品はいくつか読みましたが、これと「いまはもういないあたしへ・・・」が
深い印象が残っています。
22)今はもういないあたしへ・・・
lou    投稿日:2001年9月4日<火>02時40分

新井素子 ハヤカワ文庫

ってなわけでこっちも一緒に書いちゃうんですが(苦笑)
ひとめあなたに・・・が暖かいエンディング、という感じを受けるのに対して、
こっちは暗い、というか悲しい感じがします。

「瀕死」の重体だったはずの主人公は、半年後「奇跡的」にほぼ無傷な状態で
目が醒めます。
自分の体との違和感を感じる主人公は、その真相をつきとめようとして、
悲しい現実と直面してしまう。
ここではネタばれになっちゃうので書きませんが、最近、この小説に近い事が
開発されているのをニュースで耳にしました。

「血の描写が好き」と自分で宣言しているだけあって、やはりちょっとグロいところも
あるのですが、これもたまに読み返したくなる作品です。
23)取り替え子 チェンジリング
どーも    投稿日:2001年9月10日<月>21時47分

大江健三郎著 講談社 
2000年12月5日発行 1900円

ノーベル賞作家大江健三郎の小説としては最新作。
これがかなり衝撃的な内容の作品なのです。
つまり、著者の奥さんの実兄である伊丹十三氏の自殺を題材にした
半分ノンフィクションとも言えるフィクションなのです。
あまりにもモデルに忠実になぞってある登場人物なので
ちょっとワイドショー的趣味で、どんどん読み進んでしまいます。

しかも、話しは大江氏が生まれる前の四国の深い森の中での
おとぎ話しのような出来事から始まり、著者と伊丹氏の高校での
出会い、また、夫人(つまり伊丹氏の実妹)との出会い、
さらに障害を持って生まれた子息(光さん)のことや自身の
作品のことまで、まるで自伝を読むように話しが展開していきます。
もちろん、小説の中の話しなので、全てが事実に基づいているか
否かは定かではありませんが・・・
でも、私のように、氏のデビュー時からの作品全ての愛読者としては
そこまでは知りたくなかったのに、というような話しまで出てきてしまう。

相変わらず、大江の作品は重いテーマを扱ってはいるが、
まるで大人のおとぎ話を読むようにどことなく軽やかに
進んでいくのです。(これは、著者のあの風貌に全く似合わない
素顔、つまり、大変楽天家で、ちょっとひょうきん者という
資質に起因しているのではないかと、私は考えてしまいます。)
氏のひょうきんな性格は、作品中にもたびたび出てきます。
例えば、氏の作品「万延元年のフットボール」は、
「ラグビー試合1860」という題名に、また、
「洪水は我が魂に及び」は「聖上は我が涙を拭いたまい」に
アレンジされてしまうあたりは、茶目っ気たっぷり。

大江といえば、思い出すのは、私の学生時代、
発禁になっていた「政治少年 死す」と
「セブンティーン」(決して、少女雑誌ではありません。念のため)
の2編が載った冊子(ガリ版で刷られ、わら半紙で綴じたもの)を
夢中になって友人と回し読みしたこと。
(それが原因で右翼の宿敵となった大江ですが、伊丹氏も、
暴力団の標的にされたことを考えれば、その質は全く異なるにせよ、
何か因縁めいたものを感じてしまいます。)
大江は、文学界ではマイナーなベストセラー作家として半世紀の間
一貫して誠実な態度で、想像力について書き続けてきましたが、
終にノーベル賞を受賞してしまったわけです。
本当のところ、受賞後の作品はもう読まなくてもいいかな
という気もしますが・・・

この作品の主人公、古義人という名前は、デカルトの言葉
cogito ergo sum(コギト エルゴ スム)
(学校で習いましたよね?「我思う、故に、我あり」)から
とられたのですが、名前どおりの生き方を選択しています。
つまり、今、現に考え(認識し)ながら生きていく自分だけを
唯一頼れる存在として、我あり!と呼ばわりながら、世界に
深く関わり続けようとしていきます。
そして、また、主人公が作品の中で、一度失った無垢の友人を、
チェンジリングといわれる生まれ変りを通して
再び取り返そうとするように、著者もまた、精神的に深く関わって
生きてきた親友の死(自殺)による障壁を、自分の小説という
枠組みの中でもう1度捉え直すことによってしか乗り越えられない
その誠実な姿勢に、共感を覚えます。
結局、著者はセンセーショナルな意味で伊丹氏の死を書いたのではなく
再び書くという作業を始めるために、自分を立て直す必要にかられ
書かざるを得なかったのだと思います。

私には、ずーっと読み続けなければならない作家が多すぎて、
本の山は、ますます高くなるばかり。辛くも幸せの日々が続く。

◎はるみん    素晴らしい! 投稿日 : 2001年9月15日<土>01時17分
どーもさんの書評は、お奨めの本よりもひょっとすると
面白いかもしれない。
あなたの書評には、たくさんのファンレターが来ています。
なのに、誰もここに書かないから、私が代表して書きます(
24)愛の領分
ダークピット     投稿日:2001年9月15日<土>18時01分

藤田宜永著 文藝春秋社
2001年5月1日 1700円

五十男の恋愛小説。これで直木賞受賞。
若い頃、一緒に遊んだ友(昌平)が主人公(淳蔵)の仕立屋に突然訪ねて来る
ところから話は始まります。筋無力症の妻(美保子)に会って欲しいと懇願され、
困惑する淳蔵。実は、美保子と淳蔵には過去の深いいきさつが・・・・。
美保子を訪ねた古里、長野の上田で偶然に新しい出会い。
こうして、過去と今との葛藤が始まり、やもめ中年男、淳蔵の恋が始まる。

話の筋は四人の男と女の「心と体」の葛藤。まあ良く書けている恋愛小説。
とりわけ、優れているのは藤田氏の風景描写。大変、巧いです。
お茶を飲みながら、羊羹をお口に運びながらご一読下さい。

男と女の恋愛には「愛の領分」があって、その恋が成就するか否か、
釣り合うかどうかは「領分」で決まるんだってさ・・・。

※ピットの領分(守備範囲)はユーラシア大陸ほど広いぜ。

◎どーも     題名:僕にも領分わけてください  投稿日 : 2001年9月17日<月>15時59分
さっそく読んだんですね。
さすが,男と女の間の細やかな機微を大切にする
ピットさんらしく,研究熱心なご様子には
頭が下がります。
下げたついでに,ここだけのつまらない話しと
お許しいただきたいのですが・・・

藤田宜永といえば,やはり奥様の小池真理子を
思い浮かべちゃいますね。
小池さんは,作家のなかでも1番の美女,間違いなし。
本を読んだことはありませんが,雰囲気もなかなかのもので
大人の女という感じがします。

そして文学界第2位は,清水博子さんです。
この方は,あまり知られていませんが,美人です。
「街の座標」ですばる文学賞を受けています。

そして,第3位は,今をときめく川上弘美でしょう。
身長175cmの大きな方ですが,その文章はふわりふわりと
虚実の世界をいったりきたり,過去に出した作品の
ほとんどが何かの文学賞をとったという才媛です。
いま,彼女の最新作「センセイの鞄」を読んでますので,
近いうちにご紹介します。

さて,藤田宜永は以前は,国際派サスペンスものを
書いていたようですが,最近はもっぱら恋愛もの
それも,大人の読者をうならせるいいものを書いています。
でも,小池真理子の旦那なので,くやしいから読んでいません。
25)厳粛な綱渡り
nana    投稿日:<水>07時45分

大江健三郎著 文芸春秋 
昭和40年3月1日発行600円

この本は著者の30歳の誕生日を記念して
発行されました。
500ページをこえる最初のエッセイ集です。

私がまだいろいろなものに敏感だった頃
この本を読みました。
その頃はただただ傾向していた結果の読書で
随分影響を受けた様に思います。
今、読み返してどのように響いてくるのか
ちょっと楽しみで、ちょっと不安です。

どーもさんの返信にしたかったのですが、やり方に
ちょっと,不安がありまして(管理人さん、悪いのは私です。) 
ここにしました。

取替え子 チェンジリング 是非読んでみたいと
思いました。

◎どーも     題名:志は持続するか? 投稿日 : 2001年9月18日<火>19時10分
いやぁ、懐かしい題名が出てきましたね。
大江の初期に出された全エッセイ集3部作の第1冊目ですね。
しかも1965年発行で600円なんて、あなたはいつの時代の人ですか?
でも、それ初版なら今ごろ相当な価値がありますよ。
私の本棚のは、72年発行で850円、さらに、第3集の「鯨の死滅する日」は
74年発行で1400円もしてるんです。
当時の物価の上昇もすごいと思うけど、学生の身分で、
こんな高い本をよく買ったなと今でも思いますよ。
今の時代なら、4,5000円くらいの感じじゃないかな?

もちろん、大江の作品だったから無理して買ったんだろうけど、
装丁が美しいということも大きな理由のような気がする。
著者の思いを訴えるような強さと誠実さを表している堅い造り、
カバーのくすんだ色と大きな文字で書かれた「厳粛な綱渡り」。
そう思って、あとがきを読んでたら、本の価格が急上昇している時期の
出版だったので、自分の本がこんなに高い値段で売れるんだろうか
という不安と、少しでも安い経費で仕上げるために、
友人が装丁を担当したことが書かれていた。

「厳粛な綱渡り」「持続する志」「鯨の死滅する日」この3部作の題名を
見ただけで、著者の強固な意志と社会に対する基本的なスタンスを
理解したような気になってしまう。
今では、エッセイといえば、何か日常生活での軽い思い付きとか、
なにげない話しなんていうイメージを抱いてしまいますが
この本はそれとはまったく違っている。
思い付きとか軽さの対極にあるものだ。
そんなに昔のことではないのに、当時はまだはっきり言えないことも
あった時代だった。
その中で、1人の青年が自分の小説と社会との関わりをあまりにも明確に
示すということは、小説家として相当に勇気のいることだったと感じられる。
1行1行が重く、これからの作家としての生き方を宣言しているように感じられる。
しかも、それはまだ青二才の発言であり、脆そうで不安定であり
また、自信なげでもある。でも、それだけに何かを切り裂くような
激しさに溢れている。もう、後には引けないぞというような・・・

おそらく、改めてこの3冊を読み通すことはもうないかと思うけれど、
この先、自分を見失うことがあって、なんだか勇気が欲しいなと
感じることがあったら手にとってみるかもしれないな。


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