ジョン・マクスウェル・クッツエー著 鴻巣友季子訳
早川書房 2000年11月30日発行 定価2,000円
初老の大学教授が、教え子の女学生へのセクハラで大学を追われて、
片田舎へ逃げ込み、娘が経営する農園での共同生活のなかから、
自己再生を図ろうとするが、結局・・・・・・・というのが、あらすじ。
舞台は、アパルトヘイト終焉後の南アフリカ。
主人公は、白人の言語学教授であるが、離婚暦が2回あり、
女性にはたいへんだらしない生活を送っている。
自信満々で持った一人の教え子との性関係から、告発を受けて、
一言の弁明もせぬまま失脚することに。
それまで、疎遠だった田舎に住む娘のもとに身を寄せる。
農園での生活で、彼がいかに西欧の論理と価値観で
物事を見てきたかを思い知らされる。
すでに娘との間にも世代の違いばかりでない厭離が生じており、
もどかしくも関係の修復は進まない。
しかし、農園での衝撃的な事件を契機にして、
そこから立ち直ろうとする娘の自立に促されるようにして、
彼もまた自己の再生を図ろうとしていく。
(が、その間にも彼の女性漁りは止むことはない。)
救いのない転落の構図の中で彼が見せる居直りや足掻きは
時に、ユーモラスでもある。
果たして、彼は、これからの新しい時代に、また新しい土地で
生き抜いていける人間になれるのか。
切な過ぎるラストから、それをはっきりと読み取ることは難しい。
1つ、お断りしておきたいのは、作品中、動物(犬)を巡る
残酷極まりないシーンが出てくること。
さらに、主人公が田舎で就いた仕事が動物クリニックの
ボランティアで、犬の安楽死と焼却処分をしているということ。
繰り返されるシーンに、彼はますます神経過敏になっていき、
人間の傲慢さと愚かさを思い知らされる。
教え子に対するセクハラで失脚、なんて日本でもよくありそうで、
そんな興味から読んだ部分もあるが、転落し続ける人生を
いかにくい止め、再び自らの生き様を誇れるようになるのか、
ズッシリと重い読後感が残った。
なお、「恥辱」という題は、なんだか破廉恥なことでもしでかして、
辱めを受け転落していくというイメージがあり、まさにストーリーは
その通りなのだが、むしろ原題の「DISGRACE」=神の恩寵を失うこと
と考えると、しっくりくる感じがする。
これからの人生を新しく生き直そうと真剣に考えている初老の男性?
(それって、私?)にぜひお薦めの1冊です。
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