28)センセイの鞄 |
どーも投稿日:2001年10月8日<月>10時06分 |
川上弘美著 平凡社 2001年6月25日発行 定価1,400円
お約束どおり、川上弘美の最新作登場です。
でも、この作品にはあえて書評は不要の気がします。
店頭で、思わず装丁の品のよさに惹かれて手に取り、
パラパラと頁を繰って、やさしげな文章が気に入り買い求め、
静かに読み終えて、ため息を一つついて、そっと本を置く。
それから、当分は1日1回軽くため息をつき、寝床に入る、
そんな日が続きそう。もう、これで充分でしょう。
もちろん、そのため息は、単なる恋に対する憧れや
人生に対する倦怠から生まれたものではないのです。
さあ『読んでみよう』と思った方は、この先は読まないで下さい。
『私は、多分読まないわ』という方だけ、先をどうぞお読みください。
何だか、言葉にして説明をしようとすると、陳腐になってしまいそうな
気もするのですが・・・
ともかく、装丁がきれい。シンプルなんです。
ベージュのソフトな表紙に、鉛筆の素描画と、これも鉛筆で小さく
書かれた題名。表紙の紙質もいい手ざわり。
高校時代の恩師(現国)と18年ぶりに出会った私(36歳)の恋物語。
たまたま、居酒屋で隣り合い、私は、まぐろ納豆、蓮根のきんぴら、
塩らっきょを注文する。
隣のご老体も全く同じ物を同時に頼む。
さらに彼の前のカウンターには、さらしくじらともずく酢と、彼女の
好物ばかりが、とここまでくれば、2人が何らかの関係に至るのは
素直な成り行きだともいえるのですが・・・
恋をするのに歳の差なんてとは、よく言われますが
2人の間には燃えるような情熱があるわけではなく、さらに
これが本当に男女の恋だと、言い切っていいものか・・・
川上弘美の今までの作品は、一見、純文学風に始まるのに
いつのまにか、おとぎ話のようにどこか判然としない世界に入り込み
また、こちらの世界に戻ってきたりして、それが話の展開に不思議な
味わいを生み出すというのが多かったように思う。
それが、本作では、あくまでもこちら側の世界だけで話が展開する。
しかも、登場人物はほぼ2人だけ。こんな淡々とした恋物語なのです。
感動なんてどこにあるのかというくらい淡々と・・・
まあ、成り行きがいかに自然とはいえ、冷静に考えれば、30歳以上も
歳の離れた恋物語なんて、なかなか現実には成就し難いわけで、
やはりこれも彼女の得意のおとぎ話といえないこともない。
でも、そこは、ありきたりだけれど、充分吟味された言葉づかいと
文章の品のよさ、そして、きわどい筋立てを排したつかず離れずの
2人の関係が、緊張・リラックスをないまぜにして進行していく。
もちろん、彼女は、同窓会で出会ったバツイチだけど味のある男性に
ほのかな思いを寄せたりもするし、それに、センセイとの付き合いでも、
その不自然な関係を揶揄されたりと、俗世間にまみれる部分も
しっかりと描きながら、尚且つ、現実離れした浮遊感を失わないでいる。
ついに彼女はセンセイともう一生会わずにいようと心に決める、
センセイの行きそうな所にさえ行かないでいれば、それは簡単なことだ。
会わないでいれば諦めもつくだろうと。
センセイとしばらく会わないでいるときの彼女の心の動きが魅力的だ。
いや、決して心が激しく揺れ動くわけではない、ただ、今まで
自分は一人でどうやって生きてきたんだか思い出せないだけなのだ。
2人が、ついに結ばれるのは、終わりから3ページ目のこと、そして
それから5行あとで、2人の恋は終わりを告げる。
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◎うさ 題名:センセイの鞄 投稿日 : 2001年11月14日<水>13時23分
こんにちは
書評のコーナー、いつも愉しみにしています。
川上弘美、初めて読みました。
装丁と、内容がこんなにぴったりしている本もそうないですね。
センセイの口調が、どうしても最後まで馴染めなかったのを除けば
(というのも、どうも頭に藤村俊二がオヒョイと出てくるわけでして)
しっくりきた、とい表現がぴったりの一冊でした。
たとえば、高校時代の美術の石野先生、友人が憧れているんだけど
月子さんはいまいち、その理由が「手作りの益子焼」、
これを持っているということがどうも好きになれない。
この感覚、非常によく分かるのです。
これだけで月子さんに妙な親近感を持ってしまうのです。
あと、小島君と行くバーの感じも
「くちあけのころのさらさらとした空気」という表現など
すごく気持ちのいい言葉です。
学校の先生という生き物の表現と、月子さんのけっこうぐうたらな生活の
対比も面白く、月子さんはOLという以外に、仕事の内容に関すること、
何も書かれていなかったのもあえてなのでしょうか。
ふと、5ー6年前に読んだ、小川洋子の「密かな結晶」という小説を
思い出しました。
内容は全然違うのですが、感触が分かる微妙なところで、
共通のなにかがありました。
小川洋子は「妊娠カレンダー」で芥川賞とってたはず。
しかし、「妊娠カレンダー」は読んでて、吐き気が実際にしてくるような小説で
(あくまで私には)この人の文章は好きなれないと思ったのに、
そういう人ってつい気になって、これはどうかしらなんて
たまたま買った「密やかな結晶」(じつは装丁買い)これはあたりでした。
ちなみに、どーも様
月子さんは、今年いっぱいはまだ37です。
38の私が訂正しておきます。
それにほぼ同年令の私には、30歳年の離れた恋愛が
現実離れしているとは全然思いませんでしたよ。
これからも、面白い本いっぱい紹介してください。
次は「敵討」いきまーーす。
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◎どーも 題名:おひょい、なるほど! 投稿日 : 2001年11月15日<木>21時39分
うさ様、お読みになられたのですね。
それにしても、藤村俊二にはな〜るほどと納得。
一語一語をゆっくりと噛み締めるような語り口、だけど
どこかユーモラスな味わいはぴったりですね。
ただ、私は若い時代のおひょいさんも知っているので、
本を読んだ時は、もっと年配の方、例えば、大友柳太郎を
思い浮かべました。ご存知でしょうか?
「北の国から」で正吉くんのおじいちゃんをやっていた俳優さんです。
往年の時代劇スターですが、このドラマでは酒飲みの馬追いを
やっていました。
でも、麻のスーツにカンカン帽をかぶらせたら適役だと思うな。
ちょっと、歳とりすぎかな?
それにしても、さすがに女性の感性はするどいなと感じました。
細かい言葉の感触や、行間に漂う空気感を楽しむあたりは
感想を聞いて、初めて「う〜ん、そうか。」と同感しました。
ただ、手作りの益子焼については、いまだによくわかりませんが・・・
それに、そうそう、本を選ぶのに装丁は大切ですよね。
まあ、大体、作家の感じや作品の内容に合わせて、装丁のレベルも
決まってきますから、装丁で選んでも、大きな間違いはないものです。
ただし、逆に、なんだこりゃ、という装丁でも中味はびっくりという
おどろき本も、もちろんあります。
この関係は、レコードのジャケットにも言えるかもしれません。
ところで、吉村昭の作品については、下にも書いたとおり、
しみじみ味わいのあるのは、ノンフィクションよりも小説のほうが
いいかもしれません。老爺心まで。
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◎うさ 題名:柳太郎・ 投稿日 : 2001年11月16日<金>13時54分
どーも様
お、お〜〜、大友柳太郎、丹下左膳ではないですか。
うん、うん、わかります。
笠智衆じゃ悟りすぎてるし、鶴田浩二じゃ特攻隊になっちまう。
口調はおひょいさんなんですが、いまいち、世慣れしすぎてる感じが
ちと違うなあと思っとりました。
「恋愛を前提としたおつきあいを・・・・」と大友柳太郎の口から言われたら
グッときますう〜〜〜・
私の友人の間では、本の貸し借り頻繁で(出版業界の敵ですの)
同じ本読み終わった後に、
「もしも映画にするとしたらシリ〜〜ズ!」と題し、それぞれ配役決めて、
好き勝手なこというのが、最近流行っとりまして。
みんなを納得させる人物を見つけられと、何やら勝ち誇った気分。
なかなかこれが、難しいもんで、
あんまりはまり過ぎでも面白く無いなんて言う奴もおりまして・・・・
「手作りの益子焼」・・・・・説明が難しいですねえ。
月子さんの言う通り益子焼には何の罪も無いんです。
石野先生、こだわりの人なんです。高校の美術の先生にはこのタイプが多く、
「太陽」(廃刊・・・涙)や「芸術新潮」なんかをかかさず読んでて
女性誌なら「クロワッサン」
洋服は流行に左右されずひたすら川久保令か三宅一生、決して変えない。
ハイヒールははかず、黒いペタンコ靴。
メイクも限り無くナチュラル。
心の中で密かに、桃井かおりに憧れている・・・・
要するに、「さりげなくかっこいい」と思っているのだけれど
実は「こだわりすぎでちと嫌味」
血迷って脱サラし、自然食の店とか藍染めの店、なんか出しちゃったりして
へたすると旦那は、作務衣着てそばなんか打ってたりするわけで
(調子に乗りすぎ)でも、いい奴なんです。
それが、私の感覚の「手作りの益子焼」でーーす。
伝わりました?
「敵討」
登場人物、名前が長い
漢字が多い・・・・・・負けないぞ!
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◎はるみん 題名:「手作りの益子焼」 投稿日 : 2001年11月16日<金>20時00分
うさ様:横レスです。
>伝わりました?
私にはおおいに伝わりました。
これを読んで笑い転げてしまいました。
いますね、たしかに。こういう人。
ついでに、髪の毛は決して染めたりパーマかけたりはしない。
たいていストレートのババしばり。
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◎どーも 題名:片岡千恵蔵、東千代乃介 投稿日 : 2001年11月17日<土>22時04分
>うさ様
丹下左膳なんて、あなたの世代で何故知ってるんでしょう?
私は、まさにこの丹下左膳や嵐寛十郎の鞍馬天狗の絵がついた
パッチ(本州ではメンコ)でよく遊んだものです。
ところで、益子焼、よーく分かりました。
そうか、益子焼には何の責任もなかったのか?
てっきり、私は益子焼がいけないのかと思い込んでしまって・・・
まあ、益子焼自体はどちらかというと好きなほうではないので、
実際どちらでもいいんですけど、「こだわりすぎてちと嫌味」
なるほど、よくわかりました。
でも、著者も益子焼は好きじゃないんだよ、きっと。
ここで、織部焼きを例えにだされたら、同意できなかったかも
しれません。私けっこう、気に入ってるものですから・・・
それに、メイクがナチュラルでモノトーンの服が似合う人。
これも、けっこう気に入ってるタイプなんですが・・・
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